筆界と所有権界
「土地の境界」と一言で言っても、いろいろな境界が存在します。
よく「境界紛争」で問題になるのは主に「公法上の境界(筆界)」と「私法上の境界(所有権界)」の二つです。
筆界…公法上の境界
公法上の境界=筆界 とは、土地の登記簿によって区画された土地の範囲を画する線のことです。地番と地番の境の線のことです。
地番によって特定された一筆の土地の範囲を画する線(筆界)と言い換えることもできます。境界(線)のことを登記制度から言うと「筆界」ということになるんです。
この「筆界」の定義として、平成17年に改正された不動産登記法123条1号で、「表題登記のある一筆の土地とこれに隣接する他の土地との間において、当該一筆の土地が登記された時に、その境を構成するものとされた2以上の点及びこれを結ぶ直線をいう」と規定して、所有権界とは別個・独立の概念として、立法上、明確にされました。
お堅い内容ですが、おおざっぱに言ってしまえば、地番と地番の線を法律上で決めた、という感じです。
公法上の境界(筆界)の成り立ちとしては、大きく二つあります。
一つは原子筆界と言われるもので、
明治6年から14年までの間に地租改正事業によって作成された地租改正図
その後、
明治20年ごろから明治23年頃の間に作成された構成図、いわゆる原公図(旧土地台帳付属地図の原図・和紙公図)が作成された当初に土地区画と地番設定によって線引きされた土地の区分線
もう一つは、
分筆の登記の際に、登記官あ新規に後方上の境界として創設した区画線
また、合筆の登記によって、公法上の境界が一体化したことに伴ってできた後の区分線
です。
一度決定した筆界は原則として移動することはなく、行政が関わることなくいくら個人間で境界を設定しても、それだけで、公法上の境界である筆界を移動させることはできません。
所有権界…私法上の境界
私法上の境界(所有権界)とは、所有権の及ぶ範囲のことで、私的な所有権がぶつかり合うところ、と考えられています。
私法上の境界は、個人として自由に処分できる所有権の範囲を示すもので、隣接する所有者間の合意のみによってその境(その範囲)を自由に変えることができます。
筆界と所有権界がずれるのが境界紛争
本当は、筆界と所有権界は原則的に一致しているはずなのですが、所有権界は、個人間の合意で、意思の一致のみで変更や処分することが可能だったり、所有者が転々と変わっていく間に、何らかの原因によって変更したりすることもあります。
ところが、その間も、筆界(=法務局に置いてある公図)は原則として変更されないため、実際には二つの境界が相違するのも出てきてしまいます。
これがよく言われる「土地の境界の争いが起こっている」ということなんです。
境界に関する訴訟や筆界特定制度
いわゆる「土地の境界の争いが起こっている」状態の時に、ここでいう「境界」が筆界なのか所有権界のことなのかによってその意味が変わってきます。
これを解決する手段として
- 所有権確認訴訟
- 筆界確定訴訟
- 筆界特定制度
などの訴訟手続きや手段を利用することになります。
所有権確認訴訟とは
所有権確認訴訟(所有権の範囲の確認訴訟)は、一般の民事訴訟で、土地所有権が争われている時に、係争部分の範囲を特定して自己所有地であるとの確認を求めて提起する訴えです。
この所有権確認訴訟で審判の対象になるのは、直接的には所有権界の方です。
所有権界については、所有権をどう処分しようと個人の自由なので、訴訟ではなく話し合いで決めることも自由なので、訴訟場では和解によって解決することもできます。
ということは、所有権確認訴訟での判決の効力は、当事者限りになって、第三者を拘束することはありません。
筆界確定訴訟(境界確定訴訟)とは
筆界確定訴訟は、隣接する土地の境界(筆界)が事実上不明で争いがある場合に、裁判によって新たにその境界を確定することを求める訴えです。
後方上の境界は、当事者双方の合意で境界を意のままに移動することはできないので、訴訟上の和解もできません。
当事者は訴えを提起するにあたっては、当事者間の「隣接する土地の境界が不明なんです!」と主張すれば十分で、「ここが境界だと思う」など特定の境界を示す必要はありません。
裁判官は、この請求を棄却することはできないので、食券で証拠調べ等を行って、必ず境界を確定しなければなりません。
筆界確定訴訟の判決が確定すると、その境界(筆界)は、第三者に対しても効力が及ぶことになります。
筆界特定制度
筆界特定制度とは、公法上の境界が不明となっている場合に、裁判(境界確定訴訟)より簡易・迅速に、筆界(公法上の境界)を明らかにするための制度です。この筆界特定制度を利用する方のほとんどは、隣の人と境界線でもめて申請する人です。
この制度は、平成18年1月20日に施行された新しい制度なのですが、裁判までしなくても法務局という行政側が主導となって筆界がどこかを特定してくれる制度です。筆界についての判断をすぐにして公の証明をすることで、筆界をめぐる紛争を予防するものです。
土地の売買などで、法務局の公図なんかをとって調べたら「違うんじゃない?」と思った時に使う制度、と言えます。
所有者などから筆界特定の申請があったら、法務局の筆界特定登記官が必要な調査をします。
筆界特定のために必要な事実調査をして、筆界特定に関する意見書を作成とする土地家屋調査士などの意見を聞いて、筆界特定登記官の公的判断として「ここ!」と境界(筆界)の位置を示します。
そして、筆界特定書(筆界の特定に関する認識を示したもの)を作成します。
筆界特定制度は、一種の確認作業なので、新たに境界を定めるというような効力はないのが特徴なので、不満があれば、改めて境界確定訴訟を提起することができます。
隣と境界でもめている人はいがいと多い
マイホームを購入したり、土地を所有していたりしていて、隣地との境界紛争を抱えている人がかなりいます。
→境界標を復元できない理由のレベルによって不動産売買をキャンセルしたほうがいい
境界紛争が加熱しすぎると殺人事件にまで発展して、事件としてニュースに出ていることもありますよね。
この筆界特定制度は、法務局が当初想定していた申請件数は年間約1000件でしたが、制度発足以降、年間2000件を超える件数が申請されています。
境界が決まらなくて困っている方、境界トラブルになっている方が予想以上に多いということです。
土地を購入した人があらかじめ境界トラブルがあった土地かどうか判断されてしまうことはあるのでしょうか?
筆界特定制度を利用したかどうかは、登記事項証明を見ると確認できます。
あくまで、境界特定まで至った場合です。
取り下げや却下は含まれません。
土地の登記事項証明書を見ると、「筆界特定欄」という項目があります。そこに「余白」と記載されていると筆界特定申請されていない土地とわかるのですが、番号が記載してあると、その土地は筆界とっくていがなされた土地、とわかってしまうのです。
筆界特定欄に番号が記載されていれば、
- 隣の人が立会いに応じなかった
- 承諾しなかった
- 見つからなかった
など問題があった土地だと推測されてしまいます。
もし、さらに詳細を知るとなると、どのように筆界特定に至ったのか筆界特定書で確認もされてしまいます。
筆界特定書は手数料を納付すれば誰でも法務局で取得することができてしまいます。